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 PET(Positoron Emission Tomography、陽電子放射断層撮影法)概説
〜癌診療新時代の幕開け〜

厚地記念クリニック PET画像診断センター  陣之内 正史

はじめに
ペットという言葉が、動物のペットではなくて、画像診断法のCTと同じように検査の一つとして認知される時代が来ようとしています。例をお示しします。
 74歳男性で、既往歴として狭心症でステント挿入を受けています。昨年11月胸部XPとCTで左上葉にブラとその中の腫瘤を指摘されました。「菌塊か癌か分からない。切ったら分かる」と言われたが、良性で切られるのはいやとのことで経過を見ていました。 本年、鹿児島市にPETができるということを聞き、本稼動初日にPETを受けたいとのことで予約して見えました。


図左に示しますように、左肺に明瞭な集積を認め肺癌と診断、同時にリンパ節転移も遠隔転移も無いことが診断でき(脳の小さい転移は造影MRIでないと分かりませんが)、手術を決心されました。対照的に図の右は75歳男性の悪性リンパ腫再発で、全身リンパ節の病変が一目瞭然です。

 このような良悪性の鑑別、病期診断をはじめ、PETは癌の診療になくてはならないと考えています。また、歴史的には脳や心臓の病態解明に利用されてきました。ここでは主に昨年4月から保険適応となったFDG(F-18-fluorodeoxyglucose)を用いたPETについて、原理、検査法、癌診療における意義について概説いたします。




1.PETの原理と検査法

1). PETの原理
 原理については読み飛ばしてもらってかまいません。要するに、投与した薬の集まった部位が光って見えるだけの話です。
 なぜ集まるか、なぜ光って見えるかが原理の説明となります。なぜ集まるかは次項の2の1)に書きました。
 なぜ光って見えるか?
 放射性同位元素から出てくるポジトロン(陽電子)が陰電子と合体した瞬間に消滅し強い放射線を2本出しますので、これをPETカメラで検出し断層画像を作るわけです(図)。
 PETカメラの見かけはCTやMRと変わりませんが、体から出てくる放射線を感知する検出器がリング状に並んでいます。このうち対向する検出器2つが同時に消滅放射線を感知したとき(同時計数回路)に、その直線状にポジトロンがあったと仮定してデータを収集し、コンピュータで断層像を作っていきます。画像再構成の計算は普通のCTと同じ原理です。

2). 他の画像診断法との違い
 簡潔にいえば、CT、US、MRが形態画像であるのに対し、PETは機能画像です。見た目で言うと、前者が断層面のすべての構造が見えてしまう解剖画像で、PETは悪いところだけが光って見える「闇夜あるいは薄暮のホタル画像」と例えることが出来ます。 すなわち、一目で病変を見つけることが可能なのです。
 ところで機能画像といえば、MRが近年functional imagingとして拡散強調像や環流像が取れるようになりましたが、これは相対的な計算画像に過ぎません。一方PETは、放射性同位元素をトレーサーとした絶対画像です。血流値で言うと、MRでは造影剤の通過時間を元に計算しますので真の血流値は出てきません。PETではその局所にトレーサーが何個取り込まれたかを元に計算しますので真の値を求めることが出来ます。
 PETで見ることの出来る機能としては、血流を始め酸素代謝、ブドウ糖代謝、アミノ酸代謝、各種神経伝達物質量と受容体量など多岐に渡ります。癌についていうと、ブドウ糖、アミノ酸、核酸代謝、低酸素組織、将来は癌遺伝子も見ることが出来そうです。

3). 従来のシンチグラフィ、SPECTとの違い
 ガリウムシンチグラフィのぼんやりした画像と比べ物にならないくらい鮮明な画像が得られます。分解能で言うとシンチグラフィで2cm、SPECTで1cm、PETは5mm程度ですがその数字以上に画質の差があります。現在日本では相当数のガリウムシンチグラフィがなされていますが、注射して2〜3日後に撮らないといけないこの検査は早晩しなくなると思います。転移発見のための骨シンチグラフィは、役立ちますのでしばらく残るでしょうが、Fイオンを使ったPET検査に変わるでしょう。もちろん、PET施設数と処理能力からいえば当分先の話ですが。

4). 検査法
FDG-PETの場合、4時間程度の絶食の後FDGを150〜200MBq(量として5cc程度)を静注し、1時間安静臥床してから撮影します。この間、特に注射後30分以内は目を閉じて動かずしゃべらずじっとしていることが大事です。使った筋肉にFDGが集まるのを防ぐためです。また、血糖が高いと腫瘍への取り込みが低下しますので、糖尿病の方はコントロールした上で検査することをお勧めします。
撮影は、PETカメラの体軸方向視野が15〜20cmですので、全身を撮るために7〜8部位ずらして行い、1部位3分で大腿から頭まで約100cm撮るのに21分で終了します。
CTやMRと同じように寝ているだけで検査が終わりますので患者さんへの負担はありません。また、造影剤のような副作用もありませんので安心して受けることが出来ます。



2.FDGについて
1). 癌とブドウ糖代謝
 ほとんどの癌細胞は分裂増殖のため大量のエネルギーを要しており、その多くをブドウ糖に依存しているため、正常細胞の数倍から20倍のブドウ糖を取り込みます。単にブドウ糖に放射性同位元素を付けたのでは、解糖されて散らばってしまいますので、代謝されないブドウ糖類似物質にF-18で標識したものがFDGです。これは東北大学の井戸達雄教授が約20年前に米国留学中になされた業績で、日本人として誇るべきことと思います。

 FDGは細胞内に入るとヘキソカイネースによりリン酸化されますが、それ以上代謝されずまた脱リン酸化も起きないためどんどん細胞内に溜まっていき、これを専門的にはmetabolic trappingと呼んでいます(図)。とくに癌では増殖能の高いほど取り込み量が多く、より光ってくる訳です。


2). FDGの合成法
 ここも読み飛ばしてかまいません。
 F-18は半減期110分と短いため、ほかの放射性医薬品と違ってメーカーからの配送が間に合いません。そこで院内製剤として自施設でF-18を創り、FDGを合成標識する必要があります。F-18を創るのにサイクロトロンを1時間程度運転し、その後FDG自動合成装置に送って合成標識に約1時間かかり合計2時間、準備まで入れると3時間必要となります。私たちの施設では、午前9時30分の一例目注射に間に合うように午前5時30分頃から準備にとりかかっています。
 サイクロトロンは近年、ベビーサイクロトロンとして小型化されコンパクトになりました。特に自己シールド型のものは小さく、壁や扉も通常のもので良くなり導入経費が抑えることが出来ます。合成装置はディスポーザブルカセット交換式の自動合成装置が医療用具として昨年12月に認可され、今年の保険適応実現の一里塚となりました6種類の薬品を入れたカセットを装着しボタンを押すと、52分後にはFDGが出来ているという仕掛けで使いやすくなっています。
 合成後には放射活性、放射化学純度、エンドトキシン試験、細菌培養試験などが必要で、毎日これらの合格を確認してから投与開始しています。




3.癌診療における意義
癌を対象とした場合のFDG-PET検査の意義は、次のように分けられます。
(1) 癌検診
(2) 良悪性の鑑別
(3) 病期診断、原発巣検索
(4) 治療後の効果、残存腫瘍診断
(5) 経過観察、再発診断


1). 癌検診
平成6年、PETを中心にした癌検診を日本で最初に開始した山中湖クリニックのデータによると、癌発見率は2.1%、PETだけでは5369例中62例(1.2%)という数字があります。これは、母集団の偏りがあるにしても癌検診としては驚異の発見率です。特に、1cm以下の乳癌、肺癌、甲状腺癌が見つかり完治しています。
 PETによる検診の特長は、早期発見が出来ること、特定の臓器ではなく全身臓器が対象となること、苦痛がなく2時間程度ですぐに結果が分かること、分かった時点で病期診断まで出来てしまうことが挙げられます。 欠点としては、FDGの排泄経路となる尿路系が弱く、また消化管の粘膜癌、肺の肺胞上皮癌(BAC)、分化型肝臓癌などで集積が低く検出できない場合があります。
 私たちの初期データでは、検診約200例の中に肺癌2、乳癌1、前立腺癌3が見つかっています。図に乳癌の一例をお示しします。


2). 良悪性の鑑別診断
 鑑別については、肺の孤立性陰影について9割程度の確率で可能と報告されています。炎症性疾患とくに活動性の結核に集積しますので注意が必要ですが、臨床的にある程度鑑別可能でしょう。また、炎症では比較的集積程度が低く、2時間後の遅延像をとると癌では集積が増加し、炎症では低下するパターンが多いようです。いずれにしても、FDGが集積すれば治療が必要な状態であることには違いありませんから、積極的に開胸生検や手術を検討すべき状況と言えます。
 保険で認める鑑別診断としては、肺癌、乳癌、大腸癌、頭頚部癌、転移性肝癌について「他の検査、画像診断でその存在を疑うが病理診断により確定診断が得られない患者」、膵癌では「他の検査、画像診断でその存在を疑うが腫瘤形成性膵炎と鑑別が困難な患者」が挙げられています。すなわち、これらの癌は病理で確定できないものについてPETで診断しても良いと言っている事になります。それほどFDG-PETの鑑別診断能力あるとみなされていることの証左と言えるでしょう。

3). 病期診断・原発不明癌
はじめにも書きましたが、PET検査だけで病期診断がほとんど可能であり、後述するように治療方針に与える影響も大きいのです。
もちろんT因子について正確な大きさや周囲への浸潤の診断に局所のCTやMRが必要で、脳転移の小さいものを見つけるのは造影MRIが一番です。しかし、それ以外のNとM因子はPETだけで充分と言えそうです。たとえば肺癌の場合リンパ節転移や遠隔転移の診断に、これまで胸部CT、MR、腹部エコーやCT、骨シンチグラフィや場合によってはガリウムかタリウムシンチグラフィ、頭部CTかMRといった多くの検査をしていました。PETをすることでそのほとんどが不要となり、患者さんの経済的肉体的負担も減り、医療経済効果もあがることとなります。ただ、これらの検査機器の設備投資をした病院側の収入減となりますので、すぐに減ることはないと思われます。
肺癌では、従来の検査で診断した病期がPETによりどの程度変わったかの検討では、40%で変更、そのうち30%はup-stage,10%はdown-stageであったとの報告があります。さらに治療方針に与える影響でみると、根治術から姑息術あるいはその逆、手術から化学療法といった大きな変更が35%、術式やレジメの変更といった小さな変更が25%で合計60%は何らかの影響があると報告されています。
全てではないにしろPETをしないで治療方針を決めることは、許されない時代が来ていると思います。保険では、肺癌、乳癌、大腸癌、頭頚部癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫の6つについて「他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない患者」が適応とされています。
リンパ節転移や骨転移が最初に見つかる原発不明の癌も保険適応となります。病期診断と同じように原発巣の検索に多大な検査をしていますが、PETにより他の検査が省略できるでしょう。ただ、原発巣の発見率はさほど高くなく25〜60%です。しかしPETで分からないものは他の検査でも見つからないと思われます。図は、転移性腰椎腫瘍で発症された男性で、頭頚部、呼吸器、消化器、泌尿器とさまざまな検査をされた後PET検査に見えました。左上腹部に異常集積を認め小腸原発の癌と思われる病巣が発見されました。本人はたいそう感激され、「この検査を知っていれば苦しい検査をしないで済んだのに」と言われていました。一人でも多くの方にPETの恩恵があることを願っているところです。

4). 治療後の効果判定、残存腫瘍診断
 癌治療後の効果判定や残存腫瘍診断にも有用です。ただし、術創や放射線治療後の炎症組織に集積するため終了後2ヶ月くらい空けて検査することをお勧めしています。
治療効果については現在、CTやMRといった形態診断上のサイズで判定していますが、サイズは変わらなくても中の腫瘍細胞は壊死に陥っていることがありますので、本当の効果判定にはPETが役立つでしょう。判定基準に入れてほしいと思っています。また、化学療法の効果についてFDGの集積が低下するかどうかによって早めの判定ができますので、レジメ変更の参考になります。


5). 経過観察・再発診断
保険診療でみえる方の多くはこの目的です。
一定の治療終了後の経過観察・再発診断も治療前の病期診断と同じように使えます。定期的にPET検査をするのが一番でしょうが、腫瘍マーカーなどを参考に再発が疑われ場所が特定できない場合に有用です。保険では、前述の肺癌、乳癌、大腸癌、頭頚部癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫の6つと脳腫瘍の計7疾患について転移・再発の診断が確定できない場合に適応と認めています。図は放射線壊死との鑑別が問題となりPETで再発と診断した例です。


6). PETの限界と保険適応のまとめ
FDG−PET検査は確かに役立つ検査ですが限界もあります。検診の項で述べたように尿路系の腫瘍が尿に排泄されたFDGと紛れて判定が困難なこと、FDGの集積しない癌(甲状癌、肝癌、腎癌、胃癌)があること、細胞密度の低いBACや消化管の粘膜癌の検出ができないこと、正常脳の灰白質に集積するため転移性脳腫瘍の診断が困難なこと、高血糖で腫瘍の集積が低下することなどが挙げられます。さらに言えば、集積した場所が解剖学的にどこなのか厳密な確定が難しい点もあります。しかし、PETとCTを組み合わせて同時に取れるPET-CTという装置が開発されていますので、解剖画像と機能画像のずれのない融合画像が取れるようになります。そのインパクトはまた大きいでしょう。

 現時点の保険適応をまとめると表1のように12疾患、で厳密な要件を満たす必要があります。今回適応とされなかった食道癌、子宮癌、卵巣癌もPETが役立つ疾患であり、患者さんの要望も高いことから次回改定で認めてほしいと思います。また、膀胱の近くでFDG−PETでは診断困難とされていた前立腺癌も画像再構成法の進歩により描出可能となり、私たちの検診でも小さいものが見つかっています(図)。これも適応とされたいものです。


おわりに、" PET First ! "
私どものPETが稼動始めてまだ4週間ですが、この鹿児島の地に癌診療の新しい時代が来たと実感しています。遠くは東京、大阪、福岡からも来られます。検診の結果、癌がないことを告げると一様にほっとされています。癌恐怖症で多くの大病院を転々として数多くの検査をしても納得せず癌があると信じ込んでいた方は、PETの画像を見て心から安心されました。癌と診断されてあるいは疑われて見える場合、皆さん必死の思いで検査に来られます。どこまであるのかないのか再発があるのかないのか一目で分かってある意味残酷ですが、闘病意欲を新たにされる方も多く見受けられます。
 注射一本、寝ているだけで全身の検索ができる素晴らしいPETです。欧米ではいろいろ検査しないでまずPET、「PET First !」というフレーズがあるように普及しつつあり、日本でも遠からずそういう時代になると確信しています。PETで異常の見つかった部位を精密検査すれば、無駄な検査が減り医療経済効果も大きいと思われます。会員の先生方もペットのことをPETとしてご理解頂き、一人でも多くの患者さんも健康な方もその恩恵に浴されるよう願っています。
  (平成14年7月12日、記)

 


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